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日本版LNDも気に入りました


by yukituri

式部より厳しい時代に < 読書 「女教皇ヨハンナ」 

この間ドイツのフルダで見たサブリナ・ヴェッカリン主演の新作ミュージカル、その原作本です。てっきりドイツ発だと思っていたら、アメリカの歴史小説。期待に違わず、読み応えある本でした。



書物が特別なものだった古い時代。主人公のヨハンナは、村の司祭役を務める父の聖書を使って、こっそり長兄から読み書きを習います。…と書くと簡単なようですが、ルターよりはるかな昔、そもそもラテン語なんです! 日本で言えば、ひらがなもカタカナもない時代に、「お経」 だけで読み書きを覚えるようなもの。勉強自体、古典語を覚えないとできません。凄いことです。

期待されていた兄 (次男のほう) より娘が勉強ができた、というのは、何やら紫式部を思い出す話ですが、ヨハンナの時代はさらに女は読み書きができないというか、できたら異常、ほとんど罪。式部の頃は、教養を見せるのははしたないこととはいえ、持っていること自体は望ましかったわけですが、ヨハンナの道の過酷さといったら。本を読んでいるのがばれて、一生消えない痕が残るほど父親に鞭で打たれるんですよ。自由に勉強できるようになったのは、男のふりをしてフルダ (ご当地) の修道院に入ってから。

読んでみて、ミュージカルではまだヨハンナには味方が多かったんだということが分かりました。原作では、恩師のアスクレピオスは最初しか出てこないし (教皇侍従は別人、むしろ冷たい)、修道院長は彼女の正体を知れば嬉々として死刑にしかねない人物です。その孤立無援の中でも、優れた知識や弁論を生かして活躍するヨハンナの姿は魅力的。この辺、池上永一の 「テンペスト」 (舞台は幕末期の琉球) にも似ています。

舞台では修道院長がいい人になることで (原作での数少ない味方、治療者のベンヤミンが投影されていそう) なかなかのソロもできたし、それはそれで♪ 大鴉の2人のダンサー (うち女性が日本人だったのは驚いた) も舞台で追加、ドラマチックさを増す役割ですね。

古代ローマの栄光は消え、カール大帝の威光も薄れてフランク王国が分裂へ進む9世紀。小説とかでもあまり見ない、暗黒の中世の入り口の様子をのぞけるのも楽しかったです。時々出てくる 「民衆語」 というのがおそらくドイツ語の前身、フランス語やイタリア語もまだないんですよね~ ヨハンナは今のオランダかベルギーやフランス、イタリアに行きますが、土地土地ではどんな言葉が話されていたのか、もっと知りたくなりました。

下巻には、作者の女教皇実在論? が付属。これがまた、Wikipedia (日本版) に挙げられているようなメジャーな否定論の根拠にいちいち反論するもの。ちょっとトンデモ? と思いながら読み始めたのですが、最後には 「それもアリかも」 と納得しかけて (笑) 面白かったです。
by yukituri | 2011-07-06 23:45 | 普通の日記、PC・語学関係